最近フェイクニュースってよく話題になっていますけど、あれって法律的に問題あるんですか?
そうやね。実は、日本にはフェイクニュース自体を直接規制する法律は今のところないんよね。ただ、企業がフェイクニュースを放置しておくと、大きな問題につながるケースは多いんよ。
――たしかに、デマを流された企業にとってはたまったもんじゃないですよね。
そうそう。実は「フェイクニュース」って言葉自体は最近よく使われるようになったけど、ウソやデマ情報を流されること自体は昔からある問題なんよ。だから、**「古くて新しい問題」**とも言える。
ただ今は、SNSで拡散されるスピードがものすごく早い。それによって、企業に致命的なダメージを与える可能性もある。だから今日は、フェイクニュースを流された企業が法律的にどんな対応を取れるのか、その観点から話していきたいと思います。
フェイクニュースを流された企業が取り得る3つの法的対応
――企業がフェイクニュースを流されたとき、どう対応すればいいんですか? 法的な観点で教えてください。
うん、大きく分けて3つの対応が考えられるね。順番に説明していくね。
① 信用毀損罪・業務妨害罪
たとえば、嘘の情報によって企業の信用を傷つけたり、業務を妨害した場合に成立する罪です。
たとえば、「あのフランチャイズレストランでは賞味期限切れの食材を使っている」というような虚偽の情報を流された場合を考えてみてください。これによってお店の信用が落ちたり、クレームの電話が大量にかかってきて業務が妨害されたりしたら、
- 信用毀損罪
- 業務妨害罪
が成立する可能性があります。
要するに、フェイクニュースによって「信用を傷つけた」または「業務を妨害した」場合は、この2つの罪が問われる可能性があるんです。
② 名誉毀損罪
次に、名誉毀損罪ですね。これは少しややこしいですが、簡単に言うと、**「人前で誰かの社会的評価を下げるようなことを言ったら成立する罪」**と考えてもらえれば大丈夫です。
たとえば、「あの子は◯◯の風俗店で働いている」というような情報をSNSで広めた場合です。ここでポイントなのは、その情報が仮に「本当だったとしても」名誉毀損は成立するという点です。
――えっ、事実でもダメなんですか?
そう、ここが信用毀損罪との違いで、信用毀損は「嘘」が前提。でも名誉毀損は「事実」であっても人の評価を落とす内容なら成立するんです。
裁判所の考え方としても、「風俗店で働いている」という情報は、現実には偏見が根強くあることから、それを言いふらすことで人の評価を下げる行為にあたる。だから、たとえ事実でも名誉毀損が成立するとされているんです。
③ 不正競争防止法違反
これは、ライバル企業に対してフェイクニュースやデマを流して蹴落とす行為ですね。
こうした行為は「営業誹謗行為」と呼ばれ、不正競争防止法で禁止されています。
さっきの2つ(信用毀損・名誉毀損)は、競争関係があるかどうかは関係ないんですが、この3つ目については、営業上の競合関係があるかどうかが重要なポイントになります。
つまり、ライバル企業に対して行ったかどうかで違法性が判断されるわけです。ここは注意しておいてください。
実際に企業が訴えるにはどうすれば?
――こうやっていろんな罪があるなら、企業は訴えまくればいいってことですか?
理論的にはそうなんだけど、現実にはもう少しハードルがあるんよね。
というのも、名誉毀損罪や信用毀損罪、業務妨害罪、不正競争防止法違反などを問うには、まずそのフェイクニュースを流した人が誰なのかを特定する必要があるんよ。
――発信者の特定って、やっぱりすごく時間かかりますよね。
そうそう、それが大きな問題。
確かに「発信者情報開示請求」っていう法律上の手続きはちゃんと用意されてる。でも、これにはどうしても時間がかかる。しかも、企業としてすぐに対応しないといけないのに、発信者の特定には時間がかかるっていうジレンマがあるんよ。
これが、SNS時代ならではのフェイクニュース問題の難しさなんよね。情報の拡散スピードがあまりに早すぎて、法律の対応が追いつかないという現実がある。
善意でも広がってしまうのがフェイクニュース
例えば、赤ちゃん用の粉ミルクに異物が混入していたというSNS投稿が拡散されたとします。もし自分の友達がそのミルクを使っていたら、「それ、危ないかもしれないよ」と伝えたくなりますよね?
こうした「善意での共有」が、フェイクニュースの拡散スピードを一気に早めてしまうのが現代の大きな問題です。
実際、フェイクニュースの発信者は、あえて人の感情を揺さぶるような内容にして、人々に“広めたくなる”ように作っていることが多いのです。
さらに、フェイクニュースは真実の情報より6倍も速く広がるとも言われています。これは、企業にとって非常に深刻なリスクです。
法律対応だけでは不十分
もちろん、法律的な対応としては:
- 信用毀損罪・業務妨害罪
- 名誉毀損罪
- 不正競争防止法違反
などが考えられますが、これらは発信者を特定する必要があり、手続きにも時間がかかります。
そのため、企業が被害を受けた直後の初動としては、法律対応だけでは不十分なんです。
そこで今回は、企業が取るべき現実的な3つの対応策をお伝えします。
フェイクニュース対応の3つのポイント
1. 感情的な反応をしない
まず最も大事なのは、感情的な反応をしないことです。
たとえば、SNSで「○○は不倫してるらしい」と事実無根の投稿をされたら、当然怒りますよね。でもそこで感情的に「ふざけるな!」と反応してしまうと、相手の思うツボになる可能性があります。
企業でも同じで、社内の担当者も一人の人間ですから感情的になってしまいがちですが、そこは絶対にグッとこらえる必要があります。
また、不確かな情報をもとに反論するのもNGです。間違った情報で反論すると、すぐに揚げ足を取られて、信頼を失うリスクがあります。
まずは、一つひとつ事実を確認しながら対応することが重要です。
2. タイムリーな情報開示を徹底する
フェイクニュースの拡散はとにかく早いため、企業の対応が後手に回ると、それだけで「やっぱり事実なんじゃないか」と疑われてしまいます。
重要なのは、情報が揃うのを待たず、可能な範囲で逐次情報を公開していくことです。
たとえば:
- 「問題とされた製品は現在は販売していません」
- 「この商品は3年前に販売終了しています」
- 「現在、現物を回収して調査中です」
といった内容だけでも、正確かつ速やかに出すことが信頼につながります。
「100%正確な調査レポートが出るまで沈黙する」というのは、フェイクニュース時代においてはむしろ逆効果です。
3. 根拠のある反論を行う
フェイクニュースに対して反論する場合には、明確な根拠を提示することが不可欠です。
例えば、自社内での調査だけでは説得力に欠ける場合もあります。その場合には:
- 第三者機関の検査
- 弁護士などの法的見解
- 調査報告書の公開
などを通じて、事実に基づいた情報で反論することが重要です。
「感情的に怒る」のではなく、「冷静に、根拠を持って否定する」。
これがフェイクニュースへの最も効果的な対抗手段になります。
まとめ
フェイクニュースへの対応はスピードと冷静さが勝負です。
企業が被害を受けたときに取るべき対応は以下の3点です:
- 感情的な反論をしない
- タイムリーに事実を小出しでも発信する
- 根拠を持って反論する
法律に頼ることも重要ですが、それだけに頼るのではなく、現場対応の質とスピードこそが信用を守る鍵になります。
ぜひ、こうした対応を企業の危機管理マニュアルに盛り込んでおいてください。