世界で最も難しいと言われた旧司法試験に合格した弁護士が語る、“楽して受かる勉強法”と、弁護士になった後のリアルな日常についてまとめたものです。
弁護士の「あるある」──辛いことと楽しいこと
弁護士になれば当然、辛いこともあれば楽しいこともあります。
今回はまず、弁護士としての日常や「あるある」を紹介し、次に「なぜ弁護士を辞める人がいるのか?」というテーマについても触れます。
私自身、弁護士になって12年目ですが、同期で弁護士を辞めた人もいます。
なぜ彼らは辞めたのか? どういう背景があったのか? そういった情報も共有し、最後には私の本音もぶっちゃけてお話ししていきたいと思います。
弁護士のなり方と、その先の研修
まず、弁護士になるためには、普通は法学部に入って、その後法科大学院に進学し、
1日何時間も勉強して司法試験という非常に難関な試験に挑みます。
司法試験には、担当式、論文式、さらには口述式など、いくつもの形式があります。
これらをすべてクリアしても、すぐに弁護士として仕事ができるわけではありません。
その後、「司法修習」という1年間の研修期間に入り、全国を転々としながら、
裁判所・検察庁・弁護士事務所での実務研修(裁判修習・検察修習・弁護修習)を受け、
最終的に「弁護士バッジ」をもらって、ようやく実務がスタートします。
弁護士の職場と日常業務
法律事務所の構成
弁護士といえば法律事務所。
事務所には通常、弁護士1〜2名に対し、事務スタッフが1名つくチーム体制が多いです。
多くの事務所には「相談室」があり、依頼者と1対1で法律相談を行う場所として使われます。
デリケートな内容を扱うため、防音やプライバシーへの配慮がされています。
弁護士のデスク
弁護士の机には、調べ物や裁判書類作成に必要な資料が山のように積まれています。
仕事の基本は、「聞く・読む・書く・話す」。
依頼者の話を聞き、資料を読み、主張や文書を作成し、交渉を行う──そのすべてが日常業務です。
自宅や旅先でも働けるが…自由の裏にある重圧
弁護士の働き方は、いわゆる「勤務時間制」ではなく、成果重視の委任契約です。
そのため、出勤時間などは比較的自由で、自宅で仕事をする弁護士も多くいます。
「それなら旅行先でも仕事できるんじゃない?」と思うかもしれませんが、実際できます。
南の島でも山の中でも、仕事を回してさえいれば問題ありません。
ただし裏を返せば、365日、事件から逃れられないということ。
事件を受任している以上、どこにいてもクライアントから電話がかかってくる可能性があります。
出張も多い弁護士の現場
裁判所への出廷はもちろん、刑事事件であれば警察署への接見もあります。
また、企業法務案件であれば、取引先の企業に出張することも。
つまり、弁護士は意外と「いろんな場所に行く仕事」でもあるのです。
弁護士“辛いあるある”2選
1. 「聞く・話す」のストレス
司法試験を突破した人は、読む・書くには非常に強いです。
しかし実務では、「人の話を聞く」「交渉相手と話す」といった、対人コミュニケーションが重要になります。
この“人と話す”という点が、試験勉強ではあまり経験してこなかったことなので、
実務に入ってから大きなストレスになることがよくあります。
2. 複数事件の同時進行による負担
弁護士は常に10件〜20件、多い人で100件以上の事件を同時に抱えています。
検察官や裁判官も同様ですが、一つ終わっても、すぐ次の事件が入ってくるのが常です。
そのため、「一区切りつけて打ち上げ!」のような達成感を味わうタイミングが少ないのです。
年末年始や夏休みでも、業務用携帯に連絡が来る可能性があるなど、
事件から完全に解放される時間がなかなかないのも、弁護士ならではの特徴でしょう。
それでも、弁護士という仕事には魅力がある
…とはいえ、もちろん辛いことばかりではありません。
この“辛さ”の裏には、他の職業では得られないやりがいや、
人の人生に深く関われる責任感と充実感もあるのです。
次回は、「なぜ弁護士を辞める人がいるのか?」「続けるためのコツとは?」について、さらに踏み込んでお話しします。
弁護士の魅力とは?
魅力がどこにあるかというと、まずひとつ目は「マイナスからゼロにする仕事である」という点です。
これは少し分かりにくいかもしれませんが、普通の仕事って、例えば旅行業なら、日常生活にプラスアルファの楽しみを加えるものですよね。洋服も、最低限のものは持っていても、さらにオシャレなものを提供する、といった感じで。そういったプラスの価値を提供する事業や商売が多いと思います。
でも、弁護士の仕事は全然違っていて、スタート地点が「マイナス」であるケースがほとんどです。トラブルや問題を抱えた人が相談に来て、それを法的に解決することで、ようやく「プラマイゼロ」になるんです。つまり、マイナスの状態からしっかりと人生を引き上げて、無事に社会復帰してもらう。そこに弁護士という仕事の特徴があるのではないかと思います。
そういう仕事に関わっていると、どういう場面に出会うかというと、やはり「人の人生の転機」に立ち会うことが多いんですよね。何らかの悪い渦に巻き込まれて、いわば人生の泥沼にハマっているときに、自分の仕事として関わることができて、その人がマイナスからゼロに戻っていく。そして、そこからまたプラスの人生を歩み始める――そんな後ろ姿を見られるのは、弁護士業の大きなやりがいだと思っています。
裁量と社会性のある仕事
もうひとつ、よく言われる魅力は「裁量がある」ということ。弁護士はプロフェッショナルなので、誰かから指示を受けるわけではなく、自分でしっかり判断して、戦略や戦術を考え、そして自分で事件を解決していきます。仕事に対する自由度が高いんですね。
さらに、「社会性」も大きなポイントです。ただのお金儲けではなく、社会に存在する法律的な歪みを解消していくという、社会的な使命を持った仕事でもあります。そういった公益性の観点からも、非常に魅力があり、面白い仕事だと思います。
弁護士になったら、もちろん暗い部分もあれば、こうした魅力もある、ということを理解してもらえたと思います。
それでも辞めていく人がいる理由
それでも、中には自ら望んで司法試験に合格して弁護士になったにもかかわらず、辞めていく人もいます。そうした人たちには、大きく4つのパターンがあるように感じるので、ここで紹介しておきます。
① インハウスへの転職
どういうことかというと、先ほど話した通り、弁護士の仕事はクライアントや相手方など、多くの関係者とのコミュニケーションの渦の中にあります。そして、大抵トラブルの最中にある人たちなので、怒っていたり、感情が高ぶっていたりすることも多く、そういったコミュニケーションに大きなストレスを感じるんです。
それが嫌になった人たちは、弁護士を辞めて企業に就職するケースがよくあります。弁護士バッジをつけたまま法務部に所属する「インハウスロイヤー」になる人もいれば、バッジを返却して完全に会社員になる人もいます。
インハウスに転職する人の一番大きな理由としてよく聞くのは、やはりコミュニケーションや事件処理に伴う精神的なストレスです。
② 起業家・投資家への転身
これは、弁護士よりももっと稼ぎたい、という志向を持った人たちのケースです。
弁護士業というのは、業態の性質上、例えば事務所を上場させたりすることはできませんし、自分ひとりで扱える事件の数にも限界があります。たとえ事務所を大きくしたとしても、取り扱える業務範囲には一定の制限があります。
そういった点で、事業としてもっとスケールアップしたい、収入面でも上を目指したいという人は、弁護士を辞めて起業家や投資家として独立していくケースがあります。
③ 政治家への転向
これも、弁護士からのキャリアとしては比較的「あるある」なパターンです。
弁護士は、すでにある法律をいかに社会に適用するか、という仕事ですが、政治家はその前の段階で「どんな法律を作るか」を考える仕事です。国民の声を集めて、それを法律として形にしていくという意味で、弁護士との親和性も高いんです。
弁護士として活動していく中で、「今ある法律では限界がある」「この部分は法改正が必要だ」と感じる場面も多く、そうした問題意識を持つ人は、政治家の道へ進んでいくケースもよく見られます。
④ 趣味や創作活動に生きる自由業スタイル
4つ目は、趣味や創作活動に重きを置くタイプです。
弁護士の良いところのひとつは「自由業」であること。自分で事務所さえ構えていれば、年間に3件しか事件を受けなくても問題ありません。どの分野の事件を受けるか、どれだけの仕事量をこなすかはすべて自分次第です。
そのため、独立して自分のペースで仕事をしながら、それ以外の時間を趣味や創作活動に充てている人もいます。例えば、知人からの依頼だけを受けつつ、それ以外は創作に没頭するというライフスタイルも可能です。
弁護士のリアルな日常と若手のストレス耐性について
さて、ここからは少し辛口になりますが、リアルな話をしていきます。
正直、昔の弁護士のほうが今よりストレス耐性が高かった気がします。事件を扱っていく中で、相手方とのやり取りなど、いろんな人との衝突が避けられません。昔の弁護士は、そういうぶつかり合いに強かった。もちろん、今も続けている人たちは「それに耐えられた人たち」だから、そう見えるのかもしれません。
ただ、最近の1年目〜3年目くらいの若手弁護士を見ていると、やや打たれ弱い印象を受けます。
弁護士に求められるのは「忍耐力」だけじゃない
それって忍耐力の問題ですか?とよく聞かれますが、単なる我慢ではなく、
人間関係の修羅場に放り込まれた時の“振る舞い方”とか“対応力”の話なんです。
例えば、コールセンターでクレーム対応をしたことがある人ならイメージしやすいと思います。お客さんから一方的に怒られる、あの感じに似ています。周囲を見ていても、ああいう「人から怒られる状況」に耐えられなくて辞めていく人が多いんです。
僕の場合は経営者としてのストレスがメイン
僕自身は弁護士であると同時に経営者でもあるので、事件による人間関係のストレスというより、経営側の立場のほうが大きいです。だから、人と関わる仕事も、会社の運営も両方こなしています。
クレーム対応に慣れすぎた結果、もはや怒られることがBGMのように感じられてきて(笑)、心があまり反応しなくなっています。
破産事件の現場での怒号にも「慣れ」が必要
たとえば、破産申立て専門の弁護士だとします。
債権者集会で社長の隣に座っていると、何十億という負債を抱えた会社に対して債権者から怒号が飛び交います。
「金返せ!」
「お前、泥棒か!」
…そんな言葉を、真正面から浴びるんです。
でも、それでも弁護士は冷静に、粛々と手続きを進めなければならない。
そういう修羅場に慣れていない人には本当にキツい仕事です。
医者にとっての「血」と弁護士にとっての「感情」
医者にとって血を見るのが苦手だと仕事にならないように、弁護士にとっては「人間関係の感情のドロドロ」が苦手だと続きません。
人から感情をぶつけられることが多い仕事ですし、それを自分で抱え込んでしまうタイプの人には向かないかもしれません。
飲み会で事件の話をすることはある?ない?
たまに聞かれるのが、「飲み会とかで、事件のことを酔っ払ってポロッと話しちゃうことってあるの?」という質問です。
これは、基本的に絶対にないです。
業界外の人とそういう話をすることはまずありません。
逆に、世間で話題になっている事件ほど言いにくい。あえて避けるようになります。
同業者との間で、「こういう案件があって、どう思う?」みたいな話はしますが、そのときも名前や詳細は伏せて、法律的な構成や考え方を共有する感じです。
弁護士に「完全なオフ」は存在しない
次の質問。「常に事件を抱えてる中で、休みの日はどうしてるんですか?」
正直言って、完全に気が抜けることは一度もないです。
ある先輩弁護士が言っていた印象的な表現があります。
「人から負の感情をシャワーのように浴びて、それが心にオリのように沈殿していく」
まさにそんな感じ。
だから、心を病んでしまう弁護士も少なくありません。
メンタルを守るための選択肢もある
精神的にしんどくなって、事務所に相談に来る人もいます。
「もう大きな事件は受けません」と決めて、小さな事務所で趣味と両立しながらやる弁護士もいる。
すべてを抱え込まず、スタイルを変えてやっていく人も多いんです。
弁護士という仕事の「向き・不向き」
こういう話をすると「弁護士になる人いなくなるよ」と言われますが、
それでも目指す人はいると思います。
結局、「好きかどうか」です。
ラグビーが好きな人は、体がぶつかるのが楽しい。
でも、向いてない人にとっては「なんでわざわざ痛い思いを?」となる。
弁護士も同じです。
トラブルを解決することに喜びを感じる人、人間関係の構造を読み解いて動かすことが楽しい人には、ものすごく向いている職業です。
コナンのように事件を解決する感覚が味わえる
例えば、「この人にはこう言って、あの人にはこう伝える」「ここを動かせば全体が動く」というように、人間関係を組み立てていくのが好きな人は、本当に面白いと思える仕事です。
最終的に、三方よしの形で事件が解決して、感謝されて報酬ももらえる――
そんな瞬間は「いい仕事したな」と実感できます。
まるで『名探偵コナン』のような気持ちになれる時もあります(笑)。
弁護士の資格の活かし方はいくらでもある
向いていないと感じた人でも、資格さえ取ってしまえば、インハウス(企業内弁護士)になるなど、さまざまな選択肢があります。
自分に合った使い方ができるので、とりあえず目指してみるのもアリです。
弁護士+経営という生き方もある
僕自身は、今は弁護士としての事件数は少なめで、ユニオンの立ち上げや会社経営にも携わっています。
そういう“弁護士+α”の生き方もあるんです。