アパートに住んでいると、隣人の生活音が気になることはよくあります。実際、私もかつてアパートに住んでいたとき、上の階の住人が夜中に突然エレキベースを爆音で弾き始めるという出来事がありました。
ただ、生活に音はつきものです。正当な生活音であれば、たとえ気になったとしても、社会通念上、許容される範囲とされます。たとえば、風鈴の音が多少耳についたとしても、それだけで問題になるとは限りません。
どこまでが「許容される音」か
許されるかどうかの判断基準は「社会通念上の受忍限度」、つまり一般的に見て我慢できる範囲かどうか、という点にあります。これは非常にケースバイケースで、明確な線引きはありません。
たとえば、「楽器不可」の物件でドラムやピアノを弾くのは明らかにアウトですが、風鈴程度なら許容範囲と見なされることが多いです。洗濯機も、昼間の使用であればたとえ多少うるさくても問題にされにくいでしょう。一方で、深夜の使用となると、騒音と判断される可能性が高まります。
「何時までなら良いのか」についてもネット上では「22時まで」「23時まで」「いや、20時までだ」など、さまざまな意見があります。これは物件の立地や住民の属性によっても異なります。
たとえばファミリータイプの物件であれば、夜更かしする人は少ない傾向にあるため、早めの時間に騒音を控える必要があるかもしれません。逆に繁華街の物件なら、多少遅い時間帯でも許容される可能性があります。
騒音が「受忍限度」を超えていたらどうする?
仮に隣人が「受忍限度」を明らかに超えるような騒音、たとえば深夜の飲み会や楽器の演奏などをしていた場合、まずは管理会社または大家さんに相談しましょう。
なぜなら、大家さんや管理会社には、入居者に快適な住環境を提供する義務があるからです。彼らが注意喚起を行うことで、状況が改善されることもあります。
ただし、緊急の場合――たとえば深夜に大音量の騒音が続いている場合などは、警察を呼ぶことも選択肢になります。一方、自分で直接注意しに行くのは避けましょう。騒音トラブルが原因で、過去には殺人事件にまで発展した例もあります。自ら介入するのは危険です。
注意しても改善されない場合は?
管理会社や大家さんに相談しても状況が改善されない場合、次にすべきは証拠の収集です。騒音というのは時間が経つと消えてしまうため、「あの時騒音があったんです」と言っても、証拠がなければ主張が通らないことがあります。
まずは騒音計を用意して、実際に音が発生している時間帯に測定を行いましょう。「騒音計なんて持ってない」という方もご安心ください。すべての自治体ではありませんが、多くの市区町村では騒音計の貸し出しを行っています。お住まいの地域のホームページを確認してみてください。
測定の際は、動画で記録を残すのがおすすめです。動画内で「今日は〇年〇月〇日、〇時〇分です」と口頭で言いながら、騒音計の表示画面を映してください。「何デシベルの音が出ているか」が視覚的に分かるようにしておくと、証拠として非常に有効です。
このような確たる証拠があれば、管理会社や大家さんも対応しやすくなります。再度、証拠を添えてしっかりと相談し、注意を促してもらいましょう。
騒音トラブルの法的対応と管理会社の立場からの対応策
もちろん、隣人の騒音がひどい場合には慰謝料の請求や裁判を起こすことも可能です。ただし、慰謝料の額はそれほど高額にはなりませんし、隣人との関係が悪化して住みにくくなる恐れもあるため、あまり得策とは言えません。やはり粘り強く、大家さんや管理会社に繰り返し相談し、注意してもらうことが現実的な解決方法だと思います。
では、ここで一度、管理会社の立場から見た対応方法を考えてみましょう。
騒音に関する苦情が寄せられた場合、管理会社としては放置できません。たとえば、騒音を出していると思われる入居者に注意文書を出すなどの対応が一般的です。
しかし中には、騒音被害を訴える入居者が本当に騒音に悩まされているのか疑問なケースもあります。妄想など極端な例は別としても、「うるさい」と感じるかどうかは人それぞれです。そのため、苦情の内容に客観性を持たせるために、いつ・何時ごろ・どのような騒音があったのかを記録してもらうことが有効です。そうしたメモがあれば、より具体的に相手へ注意することが可能になります。
また、必要に応じて音声や動画などの証拠の提出をお願いすることもあります。ただし、強く求めすぎると逆にトラブルの火種になるため、任意での協力を依頼するのが望ましいでしょう。
次に、騒音が発生しているのは確かだが、どの部屋から音が出ているのか分からない場合もあります。このようなケースでは、管理会社が現地に出向き、聞き耳を立てて音の出どころを特定する作業が必要になります。人違いで注意してしまうと、さらなるトラブルの原因になるため、正確な特定が欠かせません。
騒音を繰り返す入居者への対応と契約更新の扱い
もし、騒音を出している入居者に何度注意しても改善が見られない場合、「退去させたい」と考えることもあるでしょう。ただし、これは簡単ではありません。
契約期間中に退去させるには、法律上の義務違反(債務不履行)が必要です。とはいえ、賃料をきちんと払っている限り、借主としての主な義務は果たしていると見なされます。物件の使用に関する「静かに使用する義務」などの付随義務違反を根拠に契約解除するには、かなり多くの証拠が必要です。
たとえば、何度注意しても騒音をやめない、他の入居者が退去してしまった、といった複数の状況証拠を積み重ねなければなりません。
一方で、契約更新時に更新を拒否するという方法もあります。こちらの方が途中解約よりもハードルは低いですが、それでも**「正当な理由」が必要**です。
そのためには、騒音があったというだけでなく、「何度注意しても改善されなかった」「受忍限度を超える音だった」といった積み重ねられた証拠が必要になります。
とはいえ、現実的にはお互いの合意のもとで解約できるのが理想です。契約更新のタイミングで、「たびたび苦情が来ていて、申し訳ないですが今回は更新できません」と丁寧に説明して説得するのが現実的な対応と言えるでしょう。
もし入居者がどうしても住み続けたいと言うのであれば、「今後何時以降に騒音を出さない」といった内容の誓約書を交わすという手もあります。それでも改善されない場合、将来的には契約解除の根拠がより明確になるでしょう。
アパートにはさまざまな人が暮らしています。音に関するトラブルは避けにくいものですが、できる限り穏便に解決を図ることが最善策です。それでも改善されない場合には、法的手段の検討も視野に入れるべきかもしれません。